知らない、映画。

在英映画学部生のアウトプット

【時事】2022年、ネット空間でバズった映画・ドラマ総まとめ

23 (Fri). December. 2022

今回は年末企画3本立ての内の第一弾、バズった映画・ドラマの総まとめだ。この時期になるとベスト映画企画、ランキングものが各種媒体から発表されるが、それらは皆「良かった」映画のランキングである。従って知らなかった映画を発見したり、良い映画とは何か考えたりするには都合が良いかも知れないが、「じゃあ2022年ってどんな年だったんだ?」という疑問には答えてくれない。

そしてこの疑問に応えてくれる便利な記事は中々見当たらないものである。ということで需要の間隙を満たす、ニッチな記事として思いつく限りで今年流行ったコンテンツをまとめてみた。

一年を振り返るにも役立つだろうし、そこから何かを考察してみることも出来るだろう。何かの役に立てば嬉しい。興行収入ランキングなどはネットで簡単に見つかるから敢えて載せていない。基準は「バズった」何かがあるかどうかだ。今年を代表する「良い」コンテンツのまとめ、というのでもないからその点もご理解頂きたい。

Sadie Sink in Stranger Things Season 4 (2022)

Stranger Things (Season 4)

先ずはNetlixの看板シリーズ、ストレンジャー・シングスから始めよう。シーズン4から先行7話分が今年の3月に、その後7月に追加2話が配信された。最終話は150分という長さの力の入れようである。そしてStranger Thingsはこれまでだって大人気のシリーズではあった。しかし今年はかつてない、全世界的な社会現象としてのヒットを収めたと言って良い。それは具体的にはTikTokという追い風が吹いていたからだろう。

Kate Bushの"Running Up That Hill"は15秒動画で頻繁に使用されチャートを急上昇したし、"Chrissy Wake Up!"はミームとして拡散された。その他にもMetallicaの"Master of Puppets"も再ヒット、多くの80sポップミュージックが脚光を浴びた。"Pass The Dutchie"も忘れてはならない。タイトルスコア自体も弾いてみた動画などで人気になったことも付け加えておこう。

音楽面での影響に劣らずグッズ・セールスも爆発的だった。HMV等々のカルチャー・ショップでは必ずフィーチャーされていたし、日本でも例えば大手コンビニ、ファミリー・マートとのコラボやプロントでの限定ショップ営業などメジャーな成功を収めていたと思う。因みについ先日私用でロンドンまで出向いたのだが、2日と少しの滞在の間Hellfire ClubのTシャツを着た子供に少なくとも10人は出会ったと思う。

完結編に当たるシーズン5が製作中らしいが、そちらは本作を超えるヒットとなり得るのだろうか。疑ってしまうほど爆発的なヒットだったし、今年は間違いなくストレンジャー・シングスの年だったと言って良いだろう。恐らくは全ての映画・テレビ・アニメ作品を含めて。

Will Smith slap Chris Rock at the Academy

すっかりアカデミーの栄光にも影が差してしまって、何だか注目もされなくなってきているが、今年のオスカーは記憶に残るものだったと言って良い。それも偏にウィル・スミスのお陰で。今更政治的・社会的スタンスも何もないと思うからその点に関しては触れないが、Twitter/TikTok/Instagram諸々のソーシャルメディアでは散々この件をいじったミームが見られた。

サムライミ版スパイダーマン3と組み合わせて、ウィル・スミスが平手の後ヴェノムダンスを踊ったり、大乱闘スマッシュブラザーズのエフェクトを組み合わせたり。それからChris Rock=Sunday, Will Smith=Mondayみたいなミームもよく見た気がする。どれも記憶に残るほど面白かった訳ではないが、流行った映画ネタというテーマで外すことも出来ないだろう。

Johnny Depp vs Amber Heard

同じく特別面白かった訳ではないが、流行ったネタとしてはジョニー・デップの泥沼裁判だろうか。こちらもショート動画やミーム画像でViral, バズったネタだったのかなと思う。

個人的に面白かったのは友達と話していた時の会話で、演技コース所属の友達と、映画科の筆者、そして同級の友達三人で話していたのだが、丁度そのActing Courseの友達の理想の俳優がジョニー・デップだった。が、今回の一連のトラブルで彼はJohnnyが好きだと公言しにくくなってしまったそうで、「役者としては素晴らしいと思うんだけどね」とボヤいていた。対して同級の友達(女性)曰く「ジョニデみたいになるのはリスクがあるから、やめといた方が良いわよ。だってアンバーみたいなビッチが寄ってきたら迷惑でしょ」と。

最初は#MeTooの流れに乗って勝訴を確信したのであろうアンバー・ハードもただのBitchだと切り捨てられるあたり(しかも女性から)、中々世知辛い話である。

The whistle blowing at the beach - Top Gun: Marverick

さて詰まらないネタもこれで終わり。ここからは本当に面白い映画・ドラマについて取り上げる。先ずはやっぱりトップガン:マーヴェリックから。

映画としての質も高く、興行収入も絶好調だったが、その上でネット上で訴えかける魅力も持っていたという側面は強調しておく必要があると思う。具体的には砂浜でチームワークを高めるアメフトに皆で興じる場面。One Republic の"I Ain't Worried"が流れるのだが、この曲が大ヒット。特に印象的な口笛の部分である。曲自体もヒットした他Slowed Versionや、口笛だけを切り取ったバージョン、色々な形の曲が作られ、ショート動画の音源として使われていた。

映画として面白いことは何よりも大事。しかし時代を通じてアイコニックな存在になれるかどうかというのは単純な面白さや質の高さ以上に、観客に訴えかける特質があるかどうかが重要になる。嘗ては、例えばブレックファスト・クラブでモリー・リングウォルドが見せたダンスや、パルプ・フィクションでのダンス、E.T.の人差し指にタイタニックのFlyingポーズ。直ぐに真似できる様な印象的な動きがあるシーンがそのまま現実にコピーされていたが、今はネット上で受けるか否かがコピーの基準となっている様に思う。詰まり実際に映画を見て面白く、且つショート動画として切り取っても面白いこと。

マーヴェリックはこの点をも十分に満たしていたと思う。コロナ禍を乗り越えた人々を再び映画館に向かわせ、爆発的なセールスを叩き出し、質も十分に高く、そしてネット上でのアピール力も持っている。時代を象徴するに相応しい作品だと思うし、今年最高の映画と言わない理由が無いだろう。

Wednesday's Dance

同じく音源を含めてネット上でバズったドラマが、Netflix制作のウェンズデイ。公開が11月25日ということで一年の総括に含めるには遅過ぎるきらいもあるが、世界的なヒットであることには変わりないので一応。

ウェンズデイからは何と言ってもジェナ・オルテガ演じる少女が見せるダンスだろう。レディ・ガガの楽曲に合わせて(後付けらしいが)踊る訳なのだが、ジェナの独特な雰囲気とも相まって何とも言えない魅力を醸し出している。ダンス・フロアで実践するには少々難しいかもしれないが、それでもクラブ等でフィーチャーされる様な、そんな存在になれるのではないだろうか。難しいと言っても少し練習すれば誰でも真似できる程度の踊りだろうから。

Bo Cruz - Hustle

こちらも同じくNetflix製作から。こうやって振り返ってみると、Netflixのインターネット上への影響力は凄まじいと思う。ドラマとしての面白さでは他媒体(HBO MaxやHuluなど)も負けていないのかも知れないが、どうしても知名度という点で劣ってしまう。Viralなコンテンツを作り続けている限り、たとえ賞レースで負けていたとしてもNetflixがストリーミング界の王者であり続けるのだろう。

さてHustleである。こちらはアダム・サンドラ主演の映画で、彼は中々成功しないスカウトマンという役どころ。そんな彼が海外で見つけた才能がBo Cruz、フアンチョ・ヘルナンゴメスというNBAプレイヤーが演じるキャラクターだ。彼ら二人が共に協力しながらNBAを目指すというストーリーで、その道中に登場するキャラクターもアンソニー・エドワーズなど実際のNBAプレイヤーが演じている。カイリー・アービングが主演したアンクル・ドリューに近い企画とも言えるだろう。

この映画、特にバスケットボール界隈でネタにされることが多く、それは何故なら主演のフアンチョ・ヘルナンゴメスという選手が絶妙なキャラクターであったからである。NBAでの彼はベンチに居れば頼もしく使い所もある選手だが、個人としての能力は低く、ハイライトプレーもない、という至って地味なプレイヤーで、昨シーズンは4度トレードされた後に解雇、今シーズンは最低補償額での契約と、NBAに残れるかどうかもギリギリだ。

そんな彼が映画で主演し、数々のスタープレイヤーを打ち破る映画ということでネタにされない訳がないのである。彼の数少ないハイライトを集めてGOAT(Greatest Of All Time) Bo Cruzという動画が作られたり、現役最強選手レブロン・ジェームズのターンオーバーを、フアンチョ・ヘルナンゴメスの普通のプレート並べてBo Cruz>>>>Lebron Jamesと言ってみたり。

NBAという人気コンテンツにNetflixというコンテンツの王者が上手くあやかって作られたヒットだったのかなという印象だ。日本でも最近増えてきたけれど、海外でもNBAの人気は凄まじい。そのファンベースを上手に取り込んでヒットに繋げたという事で、他業種とのクロス・オーバーの成功例と言えるのかも知れない。

それにしてもフアンチョ・ヘルナンゴメスは来年も契約を貰えているのだろうか。

Austin Butler turned into Elvis 

今年はオースティン・バトラーにとって一躍出世の年だったと言えるだろう。参考までにIMDbの今年のスター・トップ10では第7位に選ばれている。

DUNE砂の惑星: part 2への出演も内定しているそうだが、今年は何といってもElvisエルヴィスの主演だろう。正直に言って筆者は全く好きな映画ではなかった。一本記事を書いて批判もした。ただエルヴィス・プレスリー役としてのオースティン・バトラーが素晴らしかったことは疑いようのない事実だろう。

そして彼のパフォーマンスの素晴らしさ、これ自体がviralになった。言ってみればアイドルの様な人気である。メディアでの露出度もグッと増え、ファンベースも強固になった。特にTroubleのシーンは素晴らしく、頻繁にカットされては使用されていたと思う。If I Can Dream も良かった。

更にDoja Catが歌う主題歌"Vegas"も人気を後押しした。耳に残るビート?と、歌い出しはショート動画でも使い勝手が良く、単なる音楽映画の枠を超えて存在感を示していたと言えるだろう。

CEO, Entrepreneur

これはBo Burnhamがジェフ・ベゾスをネタに作った曲である。元々は「ボー・バーナムの明けても暮れても巣ごもり」というNetflix映画の為に作られたが、これがAmerican Psychoと合体して爆発的なヒットになった。

具体的にはこのミームである。初めてみたのは2022年に入ってからだと思うのだが、正直正確な出所は分からない。実はPatrick Bateman Editというのは結構人気のタグで、色々なミームが作られているのだが、同じく人気のボー・バーナムとコラボしたこの動画は2022年ヒットした印象だ。

ハロウィンの仮装大会でもパトリック・ベイトマンを選択する人は身近にかなり多く、そういった意味でも人気は裏付けられているのかなと思う。

New Series of the Lord of the Ring/Game of the Thrones: House of the Dragon

この2つに関しては筆者は全く見ていないので何とも言うことが出来ないのだが、記録上は大きなヒットだったらしい。ロード・オブ・ザ・リング新作、力の指輪はアマゾン製作。ゲーム・オブ・スローンズ新作、ハウス・オブ・ザ・ドラゴンはHBO製作である。

どちらも元々非常に人気の高いコンテンツで、ファンベースも熱狂的だった。特に前者はイギリスでの人気はハリー・ポッターにも引けを取らず、広告キャンペーンも大掛かりなものだったことは確かだ。バスや電光掲示板での宣伝の他、イギリスで最も若者からの支持の熱い蒸留所、Brew Dogとコラボした限定ビールを発売したりと、力の入っていた様に思う。

GoTに関してもモバイル・ゲームの人気が盤石だったりと副収入が多く、話題に上ることは少なくとも収入という意味では安定していたのではないだろうか。

(おまけ)禍福倚伏死生有命

最後に日本でバズった作品を。台湾ホラー呪詛である。今夏のホラー映画は中々豊作で、そしてネット空間の盛り上げ方/盛り上がり具合は記憶に留めておくべきものだったのではないだろうか。そしてその中心は、哭悲/The Saddnessも話題になったとは言え、やはり呪詛を置いて他にない。こちらも又Netflix作品だ。

筆者もそこまで映画に詳しくない友達から「呪詛って映画見た?どうだった?」と何度も聞かれたから、身を持って実感している。今年の呪詛の勢いは相当なものだった。イギリスでは全く注目もされていないし、知っている人も、見た人も殆どいない。オススメにも上がってこない様な映画なのだが、それと比べて日本ではどうか。

具体的に何故、どういった要因でここまでヒットしたのかは定かではないのだが、日本であれだけ売れたということは何らかの必然性があったのだろう。2022年を振り返る上で、呪詛・哭悲・ホラー映画という並びは一つの大事なキーワードなのかなと思う。映画系Youtuber何かもこぞって取り上げていたのでね。