知らない、映画。

在英映画学部生のアウトプット

【映画解説】2023年最重要の一人称群像劇、『オッペンハイマー』(ネタバレなし)

24 (Mon). July. 2023 2023年7月21日、クリストファー・ノーラン監督最新作"Oppenheimer"が公開されました。原子爆弾開発を巡る物語の為、プロジェクト発表当初から日本公開が危ぶまれていた本作ですが、案の定公開予定情報等は一切なし。ポール・シュレイダ…

【ディスカッション】"軽さ"と"異質さ"が際立った2023年上半期の映画たち

8 (Sat). July. 2023 恐らく記事がアップされる頃には上半期ベスト映画配信も終わっている事でしょう。皆様ご覧になって頂けましたでしょうか?果たして筆者は有識者の方々と並んで上手に話せていたのでしょうか? 今回は配信に向けて原稿、というほどのもの…

【ランキング】2023年上半期ベスト&ワースト映画

29 (Thu). June. 2023 つむじ風の様な速さで吹き抜け、あっという間に2023年も折り返しです。此方に渡ってからというもの、筆者はめっきりニュースを見ることも無くなり映画を見て、たまに作り、本を読んで、書き物に励むという日々であり、社会から取り残さ…

【映画解説】視点の設定とフレームの作り方 /ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コルメス湖畔通り23番地(1975)

26 (Fri). May. 2023 今学期のモジュールは先日新たに発表されたSight & Sound誌が選ぶ歴代映画top250(批評家選出部門)からピックアップした映画を選び、「名作は何故名作と呼ばれるか」その所以を考える、というものでした。 既に皆さんご存知の通り、批…

【雑談】イギリスですずめの戸締りを見てビフォア・サンライズが大嫌いだったことを思い出した話

15 (Sat). April. 2023 新海誠監督最新作、『すずめの戸締り』が先日イギリスでも公開されました。早速見に行ってきた訳なんですが、鑑賞後映画とは全く関係のない所で中々複雑な気持ちにさせられた映画でもありました。 『すずめの戸締り』、イギリスでも漸…

【映画解説】グレタ・ガーウィグの作家性と「逃避」について/ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語 (2019)

9 (Sun). April. 2023 先日Twitterでもコメントした通りグレタ・ガーウィグ、ジョー・スワンバーグ共作映画"Nights and Weekends" (2008)を観まして、それで以てこの映画が中々奇っ怪な作品で非常に驚かされました。 基本的にはビデオ・カメラを雑に構えただ…

【メモ】映画に於ける手持ちカメラ=リアリティ、は本当か

2 (Thu). March. 2023 グラグラふらつく、上下に揺れる、手持ちのカメラはリアリティの表現だと何故だか、無条件に了解していた。しかし手持ちカメラ=リアリティという等式は成立しない様だ。Twitterでそうした意見を見たのである。確かに考えてみれば我々…

【イギリス映画史】ブリティッシュ・ニュー・ウェイヴ/フリー・シネマ運動とは何か

17 (Fri). Feburary. 2023. 筆者がイギリスへ留学する、映画の勉強をする、と語った際に飽きるほど聞かれた質問がある。何故アメリカじゃないの?イギリス映画って例えばどんな映画があるの?007、トレインスポッティング、ノッティングヒルの恋人は分かるけ…

【映画解説】意外と知らない撮影方法トリビア4選(鏡、血糊、濡れ場、一人二役)

15 (Sun). January. 2023 皆様、あけましておめでとうございます。と言っても大分時間が経ちましたが。新年1発目の記事ということで年始の挨拶から始めようかなと。 今日の記事はすぐに読めるものを、映画の中でよく見るショットでありながら意外と撮影方法…

【ランキング】2022年ベスト/ワースト映画

31 (Sat). December. 2022 2022年も間もなく終わり。歳を重ねるにつれ一年が早く過ぎて行く様な気がしてならない。 ついこの間までは高校生で、息切らせる様に生きていたけれど、学校に部活に、課題にと全身で楽しんで疲れることはもう無くなった様に思う。…

【ランキング】イギリスの映画学部生に聞いた2022年ベスト/ワースト映画

28 (Wed). December. 2022 年末企画第二弾、大学の友達にお願いしてアンケートを取ってみました。質問はたった4つ。 今年一番良かった映画は?その理由は何?今年一番ヒドイと思った映画は?その理由も教えてくれる? 選ぶ作品は貴方が今年見た作品なら何で…

【時事】2022年、ネット空間でバズった映画・ドラマ総まとめ

23 (Fri). December. 2022 今回は年末企画3本立ての内の第一弾、バズった映画・ドラマの総まとめだ。この時期になるとベスト映画企画、ランキングものが各種媒体から発表されるが、それらは皆「良かった」映画のランキングである。従って知らなかった映画を…

【脚本再現】脚本の基本フォーマット/ジョーカー(2019)

9 (Fri). Dec. 2022 Googleの検索エンジン、「映画 脚本 書き方」と打ち込んでみる。検索結果は570,000件。上から順番に開いてみる。柱、ト書き、台詞というものがある様だ。ト書きは数マス下げて書くらしい。 脚本を書く際には三幕構成というものを意識する…

【留学情報】イギリスで永住権を獲得するまでの道のり

21 (Mon). November. 2022 先日Twitterで投稿した内容の簡単な纏めなのだが、自分用のメモとして、それからブログの方でクリックが付きそうな中身だったので上げ直し。 駐在職員や国際結婚、それから語学留学に交換留学で海外に行く人が全体の優に半分以上は…

【業界研究】1920年代までのアメリカ映画館事情とスタジオ・システムから見えてくるもの

17(Mon). Oct. 2022 元々の映画離れにコロナ禍も相まって、映画館のオーナーは何処も頭を悩ませているのではないだろうか。寧ろ頭を悩ませる段は終わって、閉業に追い込まれてしまった映画館も(数字を見ている訳では無いから正確には言えないけれど)多いか…

【時事】竜とそばかすの姫を擁護してみる/果たして酷評されるべき映画だったのか?

24(Sat). September. 2022 日本時間で昨日、金曜ロードショーで竜とそばかすの姫が放送された様。公開当初から酷評されていた本作だが、今回改めて地上波放送されたことで改めて批判の声が高まっている。 脚本が酷い、リアリティが無い、ルッキズムがキツす…

【留学】意外と知らない、知らないと苦労するイギリス生活のリアル

8 (Thu). September. 2022 随分更新期間が空いて久しぶりの投稿。NOPEが公開され、ヴェネツィア映画祭が開幕し、ロード・オブ・ザ・リング新作『力の指輪』を巡って揉め.....映画業界はニュースが絶えない中で皆様如何お過ごしだっただろうか。 筆者はと言え…

【映画解説】メソッド・アクティングの罪と性的暴力/ボーイズ・ドント・クライ(1999)

22 (Fri). July. 2022 演技にリアリズムを獲得する上でメソッド・アクティングが如何に強力で有効なツールか、このことは既に十分論じたつもりだ。 sailcinephile.hatenablog.com 理想的な演技が登場人物と俳優自身の境目が消失する様なものであるとする時、…

【映画解説】映画におけるメソッド・アクティングとは何か/ディア・ハンター(1978)

20 (Wed). July. 2022 ジャック・ニコルソンに始まりヒース・レジャー、ホアキン・フェニックス、バリー・コーガン、アニメ版ではマーク・ハミルと数々の名優が挑戦してきた難役、ジョーカーだが、その中で一際酷評されたのがスーサイド・スクワッドでその役…

【映画解説】映画批評に関する幾つかの覚書/ドゥ・ザ・ライト・シング(1989)

11 (Mon). July. 2022 一応物を書いて世に出す身分であるから(と言う程大した立場でもないが)、常々主張の根拠とする所は明らかにしておかねばならないだろうと考えている。ここでは映画を論じることが専らであるが、それに対しても「良い映画」と「悪い映…

【映画解説】主題が持つ二重性、反自覚的なテーマ/ざわざわ下北沢(2000)

8 (Fri). July. 2022 以前現代的な脚本では理性によって導かれた主題を前面に打ち出している点に特徴がある、と述べた記事を書いた。その内容自体は実際に公開された映画に対して適応出来る考え方であって、著しい誤謬は無いと考えているのだが、ある見方か…

【映画解説】ポストプロダクション実態編、ファイナルカットの意味/エルヴィス(2022)

4 (Mon). June. 2022. 7月1日公開されたばかりのバズ・ラーマン新作映画、エルヴィスだがこれまでのバズ・ラーマン映画とは違うーそして従来の映画とも異なるーある問題を孕んだ、物議を醸す映画であった。端的に言ってカットを切りすぎており、信頼された俳…

【時事】東京オリンピック: Side B を見て(2022)/批評が出来ない批判家たち

29 (Wed). June. 2022 参院選の真っ只中、政治的には何かと騒がしい季節だが、その渦中で更なる論争を呼んでいるのが河瀬直美監督による東京オリンピック2020公式記録映画である。 特に Side B は「東京オリンピックの裏側を明らかにする」と予告で宣伝して…

【時事】東京オリンピック: Side A を見て(2022)/映画を見ない有識者たち

27 (Mon). June. 2022 酷評に次ぐ酷評で興行的にも大失敗している東京オリンピック2022公式記録映画。トップガン:マーヴェリックや映画 五等分の花嫁に及ばないことはある程度想定されたこととして、峠 最後のサムライや妖怪シェアハウスにまで大きく水をあ…

【映画解説】ジャンプスケア(jump-scare)の意味と機能/死霊館(2013)

25 (Sat). June. 2022 本日のテーマは現代ホラー映画、そしてホラーゲームで最も大切な技術となっているジャンプスケアである。ここには先日の記事で解説した視線の一致と誘導が非常に大きく関係している。 近年では何かと批判されることも多いジャンプスケ…

【映画解説】編集の基本、視線の一致と誘導(eye-trace)/聖なる鹿殺し(2017)

24 (Fri). June. 2022 映画の本質は編集にある、というテーゼが一応映画学上では認められている。芸術の本質など時代ごとに変わる曖昧なものでしかなく、特にそれが映画の様な総合芸術では一際曖昧にもなるのだが、それでも映画に対する編集の大切さは十分強…

【映画解説】脚本執筆の失敗例/鑑定士と顔のない依頼人(2013)

20 (Mon). June. 2022 過去3回に渡って脚本が映画内に於いて如何に機能するものか観察してきたが、最終回の本日は脚本の失敗例についてである。 脚本はプロダクションは勿論プレプロの過程で重要な役割を果たし、技術的な程度を保障する上で必要不可欠である…

【映画解説】現代的脚本術に見られる主題の重要性、創造を支配する理性/TITANEチタン(2021)

19 (Sun). June. 2022 既に述べた通り、今日の時事が与える脅威はフィクションのそれを凌駕してしまっている。だからフィクション(それが映画にせよ文芸にせよ)は単に脅威を提出するだけでなく、それを超えて安息や恐怖などの感情を生み出すことに存在意義…

【映画解説】自己破壊的な脚本術、或いは不条理映画/欲望(1966)

17 (Fri). June. 2022 先日の記事に引き続き、本日も脚本について検討する。最も基本的で王道と思われるハリウッド流古典的脚本術から始めて、本日は脚本(物語)を破壊する試みについて見ていこう。 予め断っておかなければならないが、今回は脚本を持たな…

【映画解説】ハリウッド流古典的脚本術/お熱いのがお好き(1959)

16 (Thu). June. 2022 『ル・シッド』論争についてご存知だろうか。古典主義時代の17世紀フランスでピエール・コルネイユが著した劇『ル・シッド』が三単一の法則(時・場所・筋の一致)を無視したことから、両派分かれて展開した議論のことである。 当時の…