知らない、映画。

在英映画学部生のアウトプット

【ランキング】イギリスの映画学部生に聞いた2022年ベスト/ワースト映画

28 (Wed). December. 2022

年末企画第二弾、大学の友達にお願いしてアンケートを取ってみました。質問はたった4つ。

今年一番良かった映画は?その理由は何?今年一番ヒドイと思った映画は?その理由も教えてくれる?

選ぶ作品は貴方が今年見た作品なら何でも良し。新作映画、旧作映画、TVドラマ、短編、長編、実写にアニメ、どんな映像コンテンツでも構わない。今年見た作品の中からシンプルにベスト/ワーストを選んで答えてもらう。

質問内容も回答形式も緩いアンケート企画。実施した目的は大きく分けて2つで、先ず第一には学生はこういう映画を見ているんだということを知って貰いたかったから。特に筆者がイギリスにいるということもあって、彼の地の学生(若者)はどんな映画を見ているのかを知って欲しかったというのが一つ。そして第二に今の学生のトレンドを知りたかったから。概ねの学生が製作者・批評家になることを希望している、即ち彼らの嗜好が例えば10年後の映画界に大きな影響を与えている可能性もある。今の彼らの好みを知ることは将来の映画を考える上で有益な筈。

という目的でアンケートを取ってみましたが、何といっても筆者が1人で運営する小さなブログな訳で、本来なら学部全員の声を聞くのが望ましくも、それだと収集がつかなくなってしまう。やむなく10人程に絞って声を掛け、回答して貰いました。

下では先に全員の回答を見た上で、雑感という形で軽いコメントを付けようかなと思う。日本の学生に聞いた答えがどうなるかは分からないけれど、中々バリエーションに富んだ面白い内容になったと思うし、TwitterやFilmarksのコメントを見ている限りの評価とは異なっていたりもするので比較としても十分興味深いものになったのではないでしょうか。

Jenna Ortega in X (2022)

Aさんの場合

ベスト映画は何だった?

  • ドント・ウォーリー・ダーリン(2022)
  • Bodies Bodies Bodies(2022)
  • X(2022)

良かった理由は?

  • 全く新しい考え方で、それを完璧に表現してた。演技も素晴らしくて、どんでん返し諸々込みで完全に引き付けられた。ただただ愛してる!
  • スラッシャー映画でありながら、時代に合わせてすっかりアップデートされていることが凄いと思ったし、最後まで楽しめた。これも演技が良くて、ホラーとコメディのバランス感覚がブレなかったのも良い。
  • これも完璧。変わった映画なんだけど、ホラー映画ファンとしてどこか引き付けられるものがあった。A24の映画だったら何でも見ちゃうよね。

ワースト映画の方はどう?

  • Smile(2022)
  • Prey for the Devil (2022)

それはどうして?

  • タイプじゃなかったかな。良い所もあったし、サントラも悪くなかったけど、繰り替えされる物語に集中しきれなかった
  • シリーズとしてもう飽きた。つまらない。

Bさんの場合

ベスト映画は何だった?

良かった理由は?

  • 講義で見た映画だけど、ウェス・アンダーソンのスタイルが好みだった
  • まとめてロード・オブ・ザ・リングは最高の三部作だと思うし、その後のシリーズや新作など全ての基盤となって魅力を与え続けているから
  • 単純に面白かったし、シドニーが...(シドニーって誰だ?ってなってよく分からなかったので割愛。タイプミスかな?)
  • これも講義で見た映画だけど、キャラクターと物語が連動してオチまで繋がる作りが面白かった
  • 画が格好良かったと思ってて、ヴィジュアルを暗くして雰囲気を出しつつホラー映画みたいな緊張感もあったのが良かった
  • 昔のトム・ハンクス映画の1つで、キャスト・アウェイとかフォレスト・ガンプみたいに見なきゃいけないと思って見たら凄く良かった。若しかしたら人生でもベストな映画の一つかも。
  • ニコラス・ケイジ演じるキャラクターが段々残酷で冷酷に変化していく様子に魅せられた。部分的にでも実話に由来してるってのも信じられないポイント。
  • 単純明快。カウボーイは好きだし、決闘とかリベンジ譚っていうのも良いよね。
  • セット、小道具・大道具、衣装。全部大好き。

ワースト映画の方はどう?

  • Bait(2019)

それはどうして?

  • 単純に人生で見た映画の中で一番面白くない映画だったから。この映画を見てた毎秒が私の人生に於いて無駄な一秒だったと思う、マジで。映画が高尚なアートぶってる事に満足しちゃってたし、これは私の意見だけど、モノクロ撮影ってホントに上手にやらないと失敗すると思ってて、それでこの映画は正に失敗したって感じ。誰かこの醜い映画を作った罰を受けるべきだよね。ハチミツの中を歩いてるみたいな遅い展開にもイライラしたし、テンポ良く撮った映画だったらこの映画の全てをオープニングで終わらせてたんじゃないかな。
  • それで以て、やっぱりこの映画を見てた時間は無駄だったと思うのね。もし映画館で見てたとしたら、速攻で退席してたと思う。だってこれはアートハウスのゴミ屑で、メッセージのある深い映画だと思って作ったのかも知れないけど結局何も言えてないし、深さなんて便器に溜まった小便くらいのモンだよ。この映画が全部の時間を費やして語った事なんかよりも、youtubeとかの30秒広告の方が語るべき事に溢れてる。これが講義で見た映画で、そんで隣に座ってるヤツがいなかったならオープニングより先を見ることも無かったね。

Cさんの場合

ベスト映画は何だった?

  • 聖なる鹿殺し(2017)
  • レクイエム・フォー・ア・ドリーム(2000)
  • 成功の甘き香り(1957)
  • 秘密の森の、その向こう(2021)
  • 大地のうた(1955)
  • CLIMAX クライマックス(2018)
  • Went the Day Well? (1942)
  • グリフターズ/詐欺師たち(1990)
  • トリコロール/白の愛(1994)
  • サウルの息子(2015)

良かった理由は?

  • (回答無し)

ワースト映画の方はどう?

それはどうして?

  • (回答無し)

Dさんの場合

ベスト映画は何だった?

良かった理由は?

ワースト映画の方はどう?

  • ソー:ラブ&サンダー(2022)

それはどうして?

  • ゴミ箱の中で火事が起きたみたいな、屑のカオスだったから。

Eさんの場合

ベスト映画は何だった?

  • 新感染 ファイナル・エクスプレス(2016)
  • ブラック・フォン(2021)
  • ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語(2019)

良かった理由は?

  • どれも脚本がよく書かれていて、楽しめる。キャラクターが成長し、彼らの中に深みがある。

ワースト映画の方はどう?

それはどうして?

  • 酷い映像効果。キャラクターに見るべき所も無い。虚無。

Fさんの場合

ベスト映画は何だった?

  • X(2022)
  • Pearl (2022)
  • Bodies Bodies Bodies (2022)
  • ナイブズ・アウト(2019)
  • エターナル・サンシャイン(2004)
  • ジャンゴ 繋がれざる者(2013)
  • プレデター:ザ・プレイ(2022)
  • パラサイト 半地下の家族(2019)
  • フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊(2020)

良かった理由は?

  • ウェス・アンダーソンの映画スタイルが大好き(皆も好きだよね?)
  • プレデター:ザ・プレイなんだけど、これはプレデターっていう既存の素晴らしいものを上手に再創造したと思う。原始的な過去の話を扱って、全然違うイメージを与えてくれた。
  • XとPearlはミア・ゴスが出演してるホラー映画の傑作コンボだね。彼女は今年僕が見た中でも特に素晴らしくて、お気に入りだったよ。

ワースト映画の方はどう?

  • 今年見た映画はどれも良かったんじゃないかな。

それはどうして?

  • 元々時間が無限にある訳じゃないから、取捨選択をしながら見る作品を決めるんだけど、今年の作品はどれも良かったんだ。ワーストって言う程悪い作品は思いつかなかったってだけ。

Gさんの場合

ベスト映画は何だった?

  • Crimes of the Future (2022)

良かった理由は?

  • ボディ・ホラー最高

ワースト映画の方はどう?

  • Burning Guilt(これは多分彼が主演した自主制作映画のことだと思います、誰が回答したか分からないけど下の理由を見る感じで何となく)

それはどうして?

  • 俺の名前がクレジットされなかったから

Hさんの場合

ベスト映画は何だった?

良かった理由は?

  • ここに選んだ映画はどれも興味深いなと思った作品で、バラエティに富んだものになってると思うんだけど、それはジャンルという枠組みで見て際立ってる作品が素晴らしいよねっていう基準で選んだから。後は文化的に重要な映画も選んだつもり

ワースト映画の方はどう?

それはどうして?

  • エル・ドラドアメリカの西部劇が退屈になって、でもスタジオが大規模で製作してる、その歪みを見せてる映画(つまらないのに金が掛かってる矛盾)で、似たような現象がワイルド・スピード/ジェット・ブレイクにも見られると思う。死に体のフランチャイズなのに誰もトドメを刺さずに存続させてるという意味で。

Iさんの場合

ベスト映画は何だった?

  • シャッターアイランド(2010)
  • ジュディーを探して(2017)
  • オー!マイ・ゴースト(2008)
  • カオス・ウォーキング(2021)
  • ブレックファスト・クラブ(1985)
  • レッド・ノーティス(2021)
  • セッション(2014)
  • ホビット三部作
  • Barbie: A Fairy Secret (2011)
  • ズートピア(2016)

良かった理由は?

  • 他の人が凄く高く評価してる映画で見てみようかなと思ったら良かった、とか好きな俳優が出てるから見てみようと思ってみたら面白かった、っていうケースが多かった

ワースト映画の方はどう?

それはどうして?

  • 私はホラー映画のファンじゃないんだけど、何故ならそれは単純に気持ち悪すぎたり、怖がらせようと思い過ぎてプロットが馬鹿馬鹿しくなっちゃってたりするから。ホラー映画以外で挙げた映画は取り敢えずつまらなかった。

 

雑感

ちょっとサンプル少ないかなと思ったんですが、この人数にしておいて正解ですね。十分長い記事になってしまった。簡単に全体の傾向を考えて、コメントしてみましょう。

①ワースト映画は傾向が偏っている

選出される作品、その理由ともにワースト映画はある程度一様だと思いましたね。ワールド・ウォーZにPrey for the Devil、ワイルド・スピード/ジェット・ブレイク。どれもジャンル映画というか、その道の人が好きな映画っていうイメージがあります。

ゾンビ映画が大好きで、ゾンビの描き方の微妙な違いを楽しんだり、アクション映画の動線を楽しんだり。そういうジャンルにどっぷり浸かった人にとってはこうした作品って堪らないんだと思うんですが、普通に見る分には余り面白くない。

だからコテコテのジャンル映画というか、既存の領域に留まっている様な作品は嫌われているのかなという印象を持ちましたし、今後そうした作品は減っていくのかなとも思いますね。

②型に嵌まった作品は嫌い。でもジャンルの安心感は欲しい。

ワースト映画をその様に見ると、ベストに来ている映画は風変わりなジャンル映画が多いのかな、という印象を受けます。

ストレートなロマンスでありながら、奇妙な演出のエターナル・サンシャイン。ミステリー映画でありながら早々に種明かしをしてしまうナイブズ・アウト。格好良くないヒーロー映画、バットマン

Hさんのコメント、ジャンルとして際立っているというのも秀逸だなと思いましたよ。ジャンルの枠組みで映画は見たいけど、プラスαで変わった何かが欲しい。今年の映画で言えばXなんかが正にそうした映画で、ジャンルの脱構築とまでは行かないけれど、ホラー映画の教科書からは外れている。

そうしたジャンルの枠組みに留まった上で、一捻り加えた映画。そうした作品が好まれるのではないかと思いますね。ハイクラスな映画でもサウルの息子は伝統的な二項対立からは外れた戦争映画だし、サムライだって殺し屋映画にしてはアクションが鈍重ですよね。

あくまで緩い繋がりというだけですが、そうしたまとめ方も出来るのではないでしょうか。

Netflix最強

そして最後に、Netflixの力は凄いですね。先日の記事でも同じ事を書きましたが。

sailcinephile.hatenablog.com

 

旧作からランクインした映画たち、

グリーンマイル(1999)、ロード・オブ・ウォー(2005)、クイック&デッド(1995)、ギャング・オブ・ニューヨーク(2002)、CLIMAX クライマックス(2018)、ブレードランナー2049(2017)、ナイブズ・アウト(2019)、エターナル・サンシャイン(2004)、ジャンゴ 繋がれざる者(2013)、シャッターアイランド(2010)、ジュディーを探して(2017)、オー!マイ・ゴースト(2008)、カオス・ウォーキング(2021)、ブレックファスト・クラブ(1985)、レッド・ノーティス(2021)、セッション(2014)、Barbie: A Fairy Secret (2011)

これら全部イギリスのNetflixで見られる作品です。他の媒体でも勿論見れるとは思うんですが、例えばブレックファスト・クラブって一般の映画ファンはNetflixでプッシュされてなかったら見ないのかも知れないですよね(現在Netflixのトップページで大きく取り扱われてます)。

映画の勉強してる人だったら、ジョン・ヒューズが80年代のコメディの中心人物だったことは習うと思うので、そういう路線で見る機会があると思います。でも古い作品って若い人には特に届きにくくなってる訳で、Netflixで見れるか見れないかは今後作品が生き残るか否かを決める大きなファクターになるのかも知れません。

例えば同じ80年代でも、卒業白書みたいな映画。こうした昔のよくあるジャンル映画って再評価も中々されにくく、研究対象になることも多くはない。そういう意味でアートハウス作品(ズラウスキーのポゼッションとか)の方が将来的には安泰で、ジャンル映画の方が生き残れない可能性もあるのかなと思いますね。

ジャンルの周縁にあたる映画が作られて、その中心にいるべき作品は忘れられる。こうした現象が起こることも十分考えられます。