知らない、映画。

在英映画学部生のアウトプット

【映画解説】意外と知らない撮影方法トリビア4選(鏡、血糊、濡れ場、一人二役)

15 (Sun). January. 2023

皆様、あけましておめでとうございます。と言っても大分時間が経ちましたが。新年1発目の記事ということで年始の挨拶から始めようかなと。

今日の記事はすぐに読めるものを、映画の中でよく見るショットでありながら意外と撮影方法が不思議な4つのショットについての簡単な説明を準備しました。タイトルにもある通り、鏡(ミラー・ショット)、血糊、濡れ場、一人二役の4種です。

早速本編に移りたいところではあるのですが、その前に冒頭少しだけお付き合い頂いて2023年の抱負を少しだけ記しておこうかなと思います。

  1. 脚本向けオープンコースに参加
  2. 脚本を3本(以上)仕上げる
  3. 脚本コンペに挑戦する
  4. 一回以上製作現場に参加する
  5. 交流を広げる

最後だけ何だか曖昧ですが、要は色んな場所に顔を出していこう、という事です。イギリスにはBFI(British Film Institute)という機関がありますが、その公式ホームページから1つ目、脚本家向けのオープンコースに参加することが出来ます。また3つ目、彼らが取りまとめるコンペに応募することも出来、有名どころではBBCNetflixtiffトロントの方)などが主催するコンペに応募が可能な様子。当然倍率も高いと予想はされますが。

なので今年の目標は自分で脚本を書いて、しっかり書き終えること。その間にプロの指導を受けつつ、本格的なものがを作れる様に勉強すること。そしてコンペに出しても満足だと思える様な脚本に仕上げる、推敲し完成度を高める、という経験をしてみること。

これらを軸に頑張りたいな、というのが今年の抱負になります。その過程で製作現場でのボランティアなんかに挑戦出来ればより学びも深いでしょう。1番、3番、4番に関してはブログでも取りまとめて発信していけたらなと思います。

また1~4番に取り組む中で5番、色々な方とお会いして一緒にお仕事をしていきたいな、という希望もあります。此方での活動が当然メインにはなりますが、日本の方でもお声がけ頂ければ可能な限りお答えしていきますので、是非2023年も宜しくお願いします。今年最後の記事で反省会なんか出来たら素晴らしいですね。

さて、それでは前置きは終わりで本編へ、ミラー・ショットの解説に移りましょう。

Vincent Cassel in La Haine (1995)

因みに今回の記事ではCGIメインの撮影には触れません。ビジュアル・エフェクト込みで話をするとややこしくなる、というより如何なる表現も出来てしまうので。それだと企画として面白味が無いですよね。飽くまでグリーンバックではなく実際に撮影する方法だけを取り上げます。

鏡(ミラー・ショット)- 憎しみ(1995)

映画の中で5本に1本は鏡を使ったショットがあることでしょう。そしてその内4本に1本は正面から鏡に向かい合うショットがあるのではないでしょうか。数字は適当ですが、それでも鏡が登場する映画は少なくない筈。そして鏡が登場するということはカメラも映っている筈ですが、当然そんなことはありません。例えば次のショット。

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カメラが背後から迫ってきているので、当然鏡に映るヴァンサン・カッセルの後ろにはカメラが映る筈ですよね。どの様に撮影したらカメラが消えることが出来るのか。

実は物凄くシンプルなテクニックで作られていて、この正面に映る青年。彼はスタント・ダブルです。そして鏡に見える部分には本当のところ何もありません。虚像に見せかけたヴァンサン・カッセルは本物のヴァンサン・カッセルで、偽物の彼とテンポを合わせて演技することで反射の様に見せ、その間カメラは何もない空間を通り抜ける、という訳ですね。

当然セットで左右対称の空間を、俳優を挟んで作る必要がありますからこのシーンはセットで作られているということも分かります(鏡があるべき場所を中心に全く同じセットを反転させて作るイメージ)。バンリュー映画でありながら、しっかりセットで撮っているというのがリアルな舞台裏です。

因みに最近の映画ではこうしたスタント・ダブルを使ったミラー・ショットにCGIを加えて鏡の四つ端の歪みを強くする様な編集を施すことが多いです。仕事が細かいですよね。勿論グリーン・バックのみで撮影することも多いですが、こうした部分部分でのCGI使用ということもあります。

血糊 - ゴッドファーザー(1972)

大量出血であれば特殊メイクだな、と分かり易いものですが、少量の出血となると却って撮影方法が不思議に見えるものです。例えば次のシーン。

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特殊メイクにしてはシャツの上にくっきり流血の跡が残り過ぎだと思いませんか?仮に特殊メイクを人体の上に施し、裏から血糊を流しているとするとシャツの染みはもっと大きく広がってもおかしくない筈。この綺麗なラインはシャツの上から血糊を流しているとしか思えない。となると答えは一つですね。

そう、ナイフに細工を施している場合です。これは特に古い映画にありがちなテクニックなのですが、現代の様に皮膚に密着した傷痕をメイクで作り出血させることは当時は難しかった様です。そこでナイフの裏側、今回であれば恐らくスーツの袖口からロバート・デ・ニーロの掌に細いパイプを通し、そこから流血させる、という手法が一般的でした。

特にクロース・アップで撮影している場合、役者のナイフと反対側の手は隠されているのでそちらにシリンダーを設置するなど工夫が出来ました。このシーンはミディアム・ワイド・ショット気味に撮られているので、実はちょっと難しかったのでは無いかと推測されますね。フレーム全体の色味もオレンジで統一されているので、血糊も普通の赤-オレンジではなく、青を足した様な色に変更している筈ですし、となればスクリーン・テストも一定数こなしているでしょう。こうした細かな技術力が名作と呼ばれ語り継がれる一つの要因でもあります。

濡れ場 - 氷の微笑(1992)

中々正面切って考えるには気まずいトピックですが、それでも「どうやったらこんなシーンが撮れるんだ?」と疑問に思ったことは、一度や二度ある筈。『氷の微笑』の冒頭など良い例ではないでしょうか。

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流石に当該シーンを貼ることは出来ないので、予告編を。見ている観客としても気まずい瞬間ですが、実際に演じる役者にとっても相当に気まずい撮影であることは事実で、そしてそれは撮影の為、というよりも準備の大変さによるものでもある様です。

事前に俳優は体のどの部分を撮影しても良いか、撮影時間はどの程度か、撮影方法はどの様なものか、といったことを確認し契約を結びます。又リハーサルに当たる以前に監督・俳優などで打ち合わせ(コレオグラフィーと表現する)を行うことも多いでしょう。

さてプロダクションに入ると、The modesty patch(日本語で言う所の前貼りに当たるのでしょうか?)という小道具が活躍します。ストラップ・レスのブラジャーの様な簡単なものから、特殊メイクでカバーをする様な高度なもの(マリリン・マンソンのアルバム、メカニカル・アニマルズのジャケ写を参照)まで多種多様、目的に応じて使い分けられます。特に男性器に対するthe modesty patchは必要不可欠で、俳優のプライバシーを考慮するという意味での必要性は男女同列ですが、カメラに対する写りやすさ、という観点で男性側の撮影はより難しさを伴います。

氷の微笑に関しては、恐らくマイケル・ダグラスバンド・エイドの様な素材で出来たベルトに似た器具を装着しての撮影、シャロン・ストーンは特殊メイク寄りの器具を使用しているのかな、と思われます。下腹部や太腿までカメラに収められていることを考えると、そしてsex doubleのクレジットも無いということで、本人による演技だったと考えても良いでしょう。

余り表立って語られる仕事・撮影法ではありませんが、実は奥が深い、非常に大変な仕事だろうと思います。

一人二役 - 戦慄の絆(1988)

Us、複製された男、アダプテーション、レジェンド 狂気の美学、一人二役で且つ同時に出演する映画は一定数存在します。博士の異常な愛情サスペリア・リメイクはシーンが被らないので理解出来ますが、2人同時にスクリーンに映る場合どの様に撮影するのでしょう?答えを言ってしまうとCGIなのですが、今回はCGIは除く、ということで戦慄の絆、という映画を取り上げてみます。

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良いクリップが載っていないな、と思い探していた所、撮影監督Peter Suschiztyによるコメント付きビデオを発見。丁度双子が同時にスクリーンに映るシーンも確認出来ます。

彼が語っている通り、使われているテクニックはスプリット・スクリーンというもので、要は同じシーンを2回撮影し、例えば1回目はジェレミー・アイアンは右側に、2回目は左側に、といった風に撮影した上でその2枚のフィルムを切り取って、真ん中でくっつけてしまう、という手法です。背景をピッタリ揃えて撮影する必要があったり、1度目と2度目で俳優の動線が被ってしまわない様に調整する必要があったりと難しい撮影が要求されるテクニックですが、実は昔から存在する技法であり、メリエスが"Four Troublesome Heads"という映画で披露していたりもします。1898年の映画ですね。

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想像される通り非常に編集の手間もかかり、撮影も難しい、という事で近年はCGIを使うことが一般的になっています。撮影中はDouble(代役の俳優)が演じる間、彼の顔の動きをセンサーで感知し、ポスプロで本物の俳優の顔をCG再現したものをトレースする、というやり方になります。これは例えばアバターのNa'vi(青い皮膚のほう)の撮影であったり、パイレーツ・オブ・カリビアンデイビー・ジョーンズの撮影にも応用されているものですね。

 

という事で今回は以上の4種類になります。CGIを嫌って何でも実写で撮ろうとするノーランは流石に異常だと思いますが、それでもこうして工夫を凝らして撮影している舞台裏を知るのは面白いものです。特に古い映画を見てみる際には、CG無しでどうやって撮影しているんだろう、と考えてみることも一つ興味深い見方になるかも知れません。